仙台の弁護士の高橋広希です。
(注:本件記事は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)の改正(令和3年法律第27号)の施行される前の開示請求に関する記事です。最新の開示請求の方法については、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続(2022年10月1日施行)の記事をご参照下さい。)
インターネット上での誹謗中傷の問題について解説致します。前回の記事では,削除請求について記載しました。今回の記事では,発信者情報開示請求について説明致します。
発信者情報とは,以下の事項のことを指します(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令から)。
1 発信者の氏名又は名称
2 発信者の住所
3 発信者の電話番号
4 発信者の電子メールアドレス
5 発信者のIPアドレス及びポート番号
6 携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号
7 SIMカード識別番号
8 4ないし6から侵害情報が送信された年月日及び時刻(タイムスタンプ)
発信者情報開示請求を行う流れの概要としては,以下のとおりです。
①サイト管理者に対する任意の開示請求
サイト管理者に対して,発信者情報開示請求書(一般社団法人テレコムサービス協会の書式)を送付するなど任意の開示請求をします。匿名掲示板では,発信者の氏名・住所については把握していないことから,IPアドレスとタイムスタンプの開示を求めます。サイト管理者において,権利の侵害が確認できると判断した場合,IPアドレスとタイムスタンプが開示されます。
②サイト管理者に対する発信者情報開示請求(仮処分)
サイト管理者がIPアドレスとタイムスタンプを任意に開示しない場合,発信者情報開示請求(仮処分)の法的手続きへと進みます。
③接続プロバイダの特定
開示されたIPアドレスから発信者が接続したプロバイダを特定します。
④接続プロバイダに対する開示請求
接続プロバイダに対して,発信者情報開示請求書を送付するなど任意の開示請求をします。
接続プロバイダは,発信者情報開示請求があった場合には,発信者(接続プロバイダの契約者)に対して意見照会書を送付し,発信者に開示に応じるか否かについて照会します。
この段階で,発信者は自身の発信について開示請求がなされていることを認識することが多いです(発信した側の対応については,別途記事を作成する予定です。)。
接続プロバイダが任意に開示するケースもあるようですが,ほとんどの場合には,任意の開示はなされないとされています。なお,時間を要するなど通信ログが消去される可能性がある場合には,通信ログ保存の請求を行う必要があります。
⑤発信者情報開示請求訴訟
接続プロバイダに対して,発信者の情報(氏名・住所など)の開示を求める訴訟を提起します。このときに仮処分ではなく,本案訴訟となるのは,接続プロバイダは発信者の情報を保有しており,仮処分であれば必要な保全の必要性を充たさないことが多いためです。
本案訴訟では,基本的には権利侵害の有無を争点として争われることになります。
⑥発信者の特定
⑤の本案訴訟における判決(または発信者からの開示についての同意)により,発信者の特定が完了することになります。
※Twitterの投稿に関して,発信者情報開示請求をする場合の手順はコチラ
発信者を特定した後に行う,慰謝料請求等については,別記事で説明したいと思います。
当事務所では,インターネット上の誹謗中傷などのトラブル(書き込まれた側,書き込んだ側の両方に対応しています)に関する法律相談を取り扱っておりますので,お悩みのある方はお問い合わせ下さい。
【省令の改正があったことから,一部修正しています】(令和2年9月7日改訂)
(令和3年11月11日改訂)
【関連条文】
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(通称:プロバイダ責任制限法)
第4条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は,次の各号のいずれにも該当するときに限り,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し,当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名,住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(令和2年8月31日改正(令和2年総務省令第82号))
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)第四条第一項の規定に基づき、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令を次のように定める。
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項に規定する侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものは、次のとおりとする。
一 発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称
二 発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所
三 発信者の電話番号
四 発信者の電子メールアドレス(電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。)
五 侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第百六十四条第二項第三号に規定するアイ・ピー・アドレスをいう。)及び当該アイ・ピー・アドレスと組み合わされたポート番号(インターネットに接続された電気通信設備(同法第二条第二号に規定する電気通信設備をいう。以下同じ。)において通信に使用されるプログラムを識別するために割り当てられる番号をいう。)
六 侵害情報に係る携帯電話端末又はPHS端末(以下「携帯電話端末等」という。)からのインターネット接続サービス利用者識別符号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービス(利用者の電気通信設備と接続される一端が無線により構成される端末系伝送路設備(端末設備(電気通信事業法第五十二条第一項に規定する端末設備をいう。)又は自営電気通信設備(同法第七十条第一項に規定する自営電気通信設備をいう。)と接続される伝送路設備をいう。)のうちその一端がブラウザを搭載した携帯電話端末等と接続されるもの及び当該ブラウザを用いてインターネットへの接続を可能とする電気通信役務(同法第二条第三号に規定する電気通信役務をいう。)をいう。以下同じ。)の利用者をインターネットにおいて識別するために、当該サービスを提供する電気通信事業者(同法第二条第五号に規定する電気通信事業者をいう。以下同じ。)により割り当てられる文字、番号、記号その他の符号であって、電気通信(同法第二条第一号に規定する電気通信をいう。)により送信されるものをいう。以下同じ。)
七 侵害情報に係るSIMカード識別番号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービスを提供する電気通信事業者との間で当該サービスの提供を内容とする契約を締結している者を特定するための情報を記録した電磁的記録媒体(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)に係る記録媒体をいい、携帯電話端末等に取り付けて用いるものに限る。)を識別するために割り当てられる番号をいう。以下同じ。)のうち、当該サービスにより送信されたもの
八 第五号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備、第六号の携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号に係る携帯電話端末等又は前号のSIMカード識別番号(携帯電話端末等からのインターネット接続サービスにより送信されたものに限る。)に係る携帯電話端末等から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻
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