X(旧Twitter)の投稿で誹謗中傷されたりした場合に、匿名のアカウントの発信者を特定する際の手順について、仮処分手続を中心に解説致します。
改正プロバイダ責任制限法が令和4年10月1日から施行されましたので、記事を改正法に合わせて改訂しました(令和5年9月26日改訂)。
新たな制度である発信者情報開示命令事件に関する裁判手続については、別記事で解説記事を作成しました。
1 投稿の証拠化
対象となるTweet(ツイート)を証拠化する必要があります。いつ投稿されたものなのか、それが公表(インターネット上にアップロード)されているものであるということが明らかになるように、スクリーンショット画像を取得するのが望ましいです。ブラウザから印刷する場合には,対象となる投稿のURL、投稿日時が載るように印刷します。
名誉毀損など、読んだ人の受け取り方が問題となるような場合に、対象となる投稿を引用リツイートした投稿なども証拠化し、一般読者の読み方について、主張を補強できるものを準備します。
2 X(旧Twitter)に対する発信者情報開示仮処分申立て(または開示命令申立て)
サービス提供者であるX(旧Twitter)に対しては、発信者情報開示仮処分を申立て、対象となる投稿をしたアカウントにログインした際のIPアドレスの開示を求めます。
※プロバイダ責任制限法の改正によって、侵害関連通信という概念が新たに制定されたことに伴い、開示の対象が変わりました。従来は、○月○日以降のログインIPとタイムスタンプの開示を受けることができましたが、投稿ごとに権利侵害の有無が判断され、侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの(裁判所は、最も時間的に近接する通信と考えているようです。)のみが開示されます。時間的に近接する通信というのが、投稿の前後にかかわらず、投稿に最も近い通信(ログイン)を指すのか、投稿前に限定して、投稿に最も近い通信(ログイン)のみを指すのかは、どちらもありえると思います。
今後は、対象とするログインIPとタイムスタンプをきちんと選定する必要があります。
報道によると、Twitter,Inc.は、X Corp.に統合されたようですので、今後は、「X Corp.」を相手方として、手続きを進めることになります。
「X Corp.」は日本における代表者の登記を行っておりますので、管轄の問題は特にありません。
大手プロバイダのログの保存期間は3ヶ月程度とされることが多く、X(旧Twitter)に対する仮処分の申立ては時間との戦いでもあります。X(旧Twitter)から開示されたとしても、プロバイダにログが保存されていなければ、その後の手続に進んでいくことができません。したがって、対象となるTweet(ツイート)を発見した場合、すぐに手続きの準備を進めるべきです。
X(旧Twitter)のアカウントが削除されている場合には、X(旧Twitter)でのログが消去されてしまうため、該当のアカウントが削除されているような場合には、すぐに法的手続の準備をする必要があります(私が担当した事例では、アカウント削除後30日以内にもかかわらず、X(旧Twitter)にログが残っていないということもありました。)
現在、X(旧Twitter)側の情報保有の有無の確認に時間を要するようで、以前よりも更に早く申立てをしないと、ログが残っていない可能性が高くなっていますので、ご留意下さい。
現時点では、当事務所としては、ログインIP・タイムスタンプの開示仮処分の申立てとアカウント情報の開示命令申立てを同時に行うのが効率的であると考えております。
X(旧Twitter)に対する仮処分の手続きは、
①申立て→
②裁判官との面接(債権者面接)→
③補正(裁判官から指示されます。ない場合もあります。)→
④債務者の呼出し・申立書の直送→
⑤双方審尋期日→
⑥発令→
⑦X(旧Twitter)からの開示という流れになります。
債権者面接は、申立後、速やかに行われる運用ですので、申立ての当日、もしくは翌日には実施されます。
開示の仮処分の手続きは、双方審尋を実施する必要がありますので(民事保全法23条4項)、双方審尋の期日が指定されます。債権者審尋から2週間程度空けて指定されることになります。
双方審尋期日を経て、裁判所が開示決定を発令すると、X(旧Twitter)からログインIPが開示されます。
なお、仮処分の場合、発令を受けるために担保の提供を求められるのですが、X(旧Twitter)は担保の提供を求めないとされているようですので、無担保で発令されることが可能です。
債権者面接も双方審尋期日も電話により出席することが可能ですので、一度も裁判所に出廷せずに発令を受けることも可能です。
新たに創設された発信者情報開示命令申立てを利用することも可能です。
X(旧Twitter)に対する、開示命令申立て(提供命令申立てを行わない場合)は、
①申立て→
②裁判所から連絡・期日指定→
③X(旧Twitter)社への書類(証拠等)の直送→
④期日→
⑤開示決定→
⑥X(旧Twitter)からの開示という流れになります。
X(旧Twitter)社は、提供命令に対応するか検討中とのことで、提供命令が出ても、第1段階の提供をしていません(令和4年11月16日現在)。したがって、X(旧Twitter)の投稿を対象とする際には、開示命令申立てと仮処分命令申立てを同時に利用したほうが、開示を受けられる可能性があると考えます。
3 X(旧Twitter)から開示された発信者情報をもとに発信者の接続プロバイダの特定
X(旧Twitter)から開示されたIPアドレスから発信者が接続したプロバイダを特定します。
X(旧Twitter)からメールで送られてきます。
なお、接続プロバイダに請求をする際、会社によってはX(旧Twitter)社からのメールやメールに記載されたリンク先のスクリーンショット等を求められるケースもありますので、開示された情報と対象のアカウントが結び付くように、リンク先のURLなども証拠化しておいた方が良いです。
4 接続プロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟
接続プロバイダに対して、発信者情報開示請求書を送付するなど任意の開示請求をする方法があります。
接続プロバイダは、発信者情報開示請求があった場合には、発信者(接続プロバイダの契約者)に対して意見照会書を送付し、発信者情報の開示に応じるか否かについて照会します。この段階で、発信者は自身の発信について開示請求がなされていることを認識することが多いです。
発信者が開示に同意しない場合でも、接続プロバイダが任意に開示するケース(著作権侵害などで権利侵害の証明が確かな場合など)もあるようですが、発信者が開示に同意しないときは、接続プロバイダは、ほぼ任意の開示はしないとされています(回答としては、プロバイダ責任制限法5条1項に該当しないことを理由とするものが多い印象です。)。
したがって、多くの場合では、接続プロバイダに対して、改正法に基づく発信者情報開示命令申立てを提起することになります(発信者情報開示請求訴訟を提起することも可能ですが、手続きの迅速性の観点からは発信者情報開示命令申立てのほうが望ましいと思います。)。
法的手続で解決するまでに通信ログが消去される可能性がある場合には、予め、接続プロバイダに対して通信ログ保存の請求(開示命令と同時に消去禁止命令の申立て)を行う必要があります。
開示命令手続(訴訟も同じ)の場合、管轄は接続プロバイダの住所地となりますので、多くの場合、東京地方裁判所になります(大手プロバイダは東京に本社がある)。自分の住所地を管轄とする方法もありますが、現在は、電話会議・ウェブ会議による期日への出頭も可能ですので、管轄が大きな妨げにはならないとは思います。
X(旧Twitter)社に対しては、仮処分手続を行い、接続プロバイダには開示命令申立て(訴訟を提起)するのは、接続プロバイダは発信者の情報(氏名・住所・電話番号)を保有しており、仮処分手続きに必要な保全の必要性を充たさないことが多いためです。
開示命令手続(本案訴訟も同じ)では、同定可能性、権利侵害の有無、違法性阻却事由の有無などを争点として争われることになります(争点は仮処分でも同様です。)。
従来は、任意の開示を受けられない場合は、発信者情報開示請求訴訟のみでしたが、改正により、接続プロバイダに対して、発信者開示命令申立てを行うことも可能となりました。発信者情報開示命令事件は、簡易・迅速な手続きが期待される制度ですので、訴訟よりも早期に開示を受けられる可能性があります。当事務所としては、現時点では、プロバイダに対しては、発信者情報開示命令申立てが最も効率的と考えております。
5 接続プロバイダから開示された発信者情報をもとに発信者の特定
開示命令手続での開示決定(本案訴訟における開示を認める判決)、または発信者からの開示についての同意により、接続プロバイダから発信者の情報が開示されれば、発信者の特定が完了することになります。
6 発信者に対して損害賠償請求
開示された情報をもとに、発信者に対して、損害賠償請求等を行っていくことになります。
開示されるのは、接続プロバイダの契約者の情報になりますので、必ずしも実際の発信者ではないという場合もあります。開示された契約者の情報が、法人であったり、ホテル、マンションなどの施設であったりするケースもあります。こういった場合には、実際の発信者を特定するまでにもうひと手間かける必要があったり、場合によっては実際の投稿者の特定を断念せざるを得ないような場合もあります。
損害賠償請求の方法は、任意の支払いを求める交渉と訴訟提起のいずれかによります。まずは任意の支払いを求め、拒否や無視をされたり、希望する金額に応じてくれない場合に訴訟を提起するという手順を踏むことが多いですが、最初から訴訟提起するという方法を選択しても問題ありません。
からんこえ法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷などのトラブル(削除請求、発信者情報開示請求などの被害者側の対応や、請求者との交渉による示談交渉、請求者から訴えられた訴訟対応、発信者情報開示に係る意見照会書の回答書の作成業務など投稿者側のいずれにも対応しております。)に関する法律相談を取り扱っておりますので、お悩みのある方はお問い合わせ下さい。X(旧Twitter)の案件も複数解決事例がありますので、経験をもとに解決策をご提案できるかと思います。
オンライン相談にも対応しております。宮城県外の方からのご相談にも対応しておりますので,お困りの方はお問い合わせ下さい。
【参考文献】
・インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式(日本加除出版)(著者:神田知宏)
・〔改訂版〕ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務-発信者情報開示請求と削除請求(新日本法規出版)(著者:清水陽平,神田知宏,中澤佑一)
・インターネット関係仮処分の実務(きんざい)(編著者:関述之,小川直人)
【関連条文】
民事保全法第11条
保全命令の申立ては,日本の裁判所に本案の訴えを提起することができるとき,又は仮に差し押さえるべき物若しくは係争物が日本国内にあるときに限り,することができる。
同法第23条
1 係争物に関する仮処分命令は,その現状の変更により,債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき,又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。
2 仮の地位を定める仮処分命令は,争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。
3 第二十条第二項の規定は,仮処分命令について準用する。
4 第二項の仮処分命令は,口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ,これを発することができない。ただし,その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは,この限りでない。
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