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  • 執筆者の写真弁護士高橋 広希

生前の預貯金の引き出しが発覚したとき(相続トラブル)

更新日:2022年3月15日

仙台の弁護士の高橋広希です。


遺産相続の際に,亡くなった方(被相続人)名義の預貯金口座から,生前に多額の引き出しがなされているということが発覚し,相続人間でトラブルになるということがあります。


被相続人と同居している,または近くに住んでいる相続人が,被相続人に無断で引き出していると疑われて(なかには,長期間にわたって,数千万円単位で引き出されているというケースもあります。),紛争になるというケースが多いように思われます。


事情を知らなかった相続人からすれば,被相続人が亡くなっているため,被相続人に直接確認することができず,引き出されたお金が何に使われたのかということに非常に関心を持つことになります。


相続人のうちの一人が,被相続人に無断で預貯金口座から引き出しているのであれば,不当利得,または不法行為が成立するということになります(法律上の問題点については,後述の文献が参考になります。)。


引き出されたお金が何に使われたのかという点が重要になりますので,主として,誰が,何に費消したのかという事実認定が問題となります。


1 誰が引き出したか

一番最初になる問題は,「誰が引き出したか」という点です。

被相続人本人が引き出したのであれば,その使い途は被相続人の自由であり,問題になることは多くありません。やはり問題となるのは,被相続人以外が引き出した場合です。

金融機関の窓口で手続をしている場合には,払戻請求書などを提出していることから,その書類を確認することで誰が手続きをしたのかということがわかります。

しかしながら,キャッシュカードを利用している場合には,誰がATMを利用したのかまではわからないことが多いはずです。

ATMの場所や利用された時間帯は,取引明細に表れますので,それらから被相続人本人によるものなのか否かということを推測していくことになります。キャッシュカードの管理状況についても,預かっている人物がいれば,その人物が引き出したという可能性が非常に高いということになります。


2 被相続人に判断能力があったか

被相続人以外が引き出しているとした場合,被相続人がその人物に引き出すことを依頼することができるだけの判断能力があったかどうかという点が問題となります。

キャッシュカードや通帳・印鑑を預ける場合というのは,被相続人が自ら金融機関に出向くことが難しくなったり,家計を管理する能力が失われつつある状態にあることが多いと思われます。

遺言能力の際にも問題になりますが,被相続人の判断能力が争われる場合には,病院の診療録(カルテ)や介護認定の際の認定調査票などから当時の状態を推定することになります。


3 権限の範囲はどこまでか

最後に問題になるのは,被相続人から引き出しを依頼されたとして,依頼された範囲(引き出す権限)がどこまでかという点です。被相続人本人以外が引き出したとしても,被相続人から依頼されて引き出されている範囲内であれば,不当利得ということにはならないことになります。


通常,キャッシュカードや通帳・印鑑を渡していた場合,口座内の預貯金を引き出すことの権限があったということにはなりますが,一方で口座内の預貯金を自由に費消してもよいという権限まであるということはできないことがほとんどです。

被相続人自身の生活費などは認められやすい傾向にありますが,それ以外には慎重に判断されることになります。


このように,生前の預貯金の引き出しが問題になった場合には,検討することが多くあります。

引出しを依頼された側の相続人としては,他の相続人に説明ができるように使い途について,きちんと記録に残しておくのが望ましいということになります。仮に,被相続人の判断能力に疑わしい点がある場合には,法定後見制度を利用するなど,裁判所の関与があるかたちで公正に行うことが望ましいと考えます。


他の相続人が生前の預貯金を引出したという疑いを持っている相続人としては,上述のとおり,取引明細,診療録などの書類を確認し,説明を求めていくということになります。亡くなる前であれば,本人に確認することも可能ですので,被相続人の判断能力に疑問を持つような出来事があった際には,家族で協議すべきだと思います。


からんこえ法律事務所では,被相続人に無断で預貯金を引き出した方に対して不当利得返還請求を行った方,反対に無断で預貯金を引き出したとして不当利得返還請求を受けた方のいずれも訴訟の経験がございますので,生前の預貯金の引き出しに関するトラブルがございましたら,お気軽にお問い合わせ下さい。

 

【参考文献】

判例タイムズ№1414・74頁「被相続人の生前に引き出された預貯金等をめぐる訴訟について」(名古屋地方裁判所民事プラクティス検討委員会第3分科会

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