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  • 執筆者の写真弁護士高橋 広希

発信者情報開示請求の手順(Instagramの場合)

更新日:2023年12月18日

Instagram(インスタグラム)でなりすまし被害や投稿で誹謗中傷されたりした場合に、匿名のアカウントの発信者を特定する際の手順について、発信者情報開示命令申立てを中心に解説致します。

改正プロバイダ責任制限法が令和4年10月1日から施行されましたので、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続についての開設となります。



1 投稿の証拠化

対象となる投稿を証拠化する必要があります。いつ投稿されたものなのか、それが公表(インターネット上にアップロード)されているものであるということが明らかになるように、スクリーンショット画像を取得するのが望ましいです。対象となる投稿のURL、投稿日時が載るように印刷するのが望ましいですが、Instagramの場合は、投稿日時まで表示されませんので、工夫が必要となります。

インスタに多い、なりすまし被害に関しては、具体的な投稿はしておらず、アイコンの画像に自分の写真を勝手に使われたりしているケースもあると思います。その場合には、プロフィール画像のスクリーンショットを取得しておくことになります。

改正プロバイダ責任制限法により、侵害関連通信に関しては、「相当の関連性」という要件のもと、時間的な近接性が要求されますので、具体的な日時の特定(基準となる日時)は重要となります。

名誉毀損など、読んだ人の受け取り方が問題となるような場合に、対象となる投稿へのコメントなども証拠化し、一般読者の読み方について、主張を補強できるものを準備します。


2 Instagramに対する発信者情報開示命令・提供命令申立て

サービス提供者であるInstagram(Meta Platforms, Inc. )に対しては、発信者情報開示命令・提供命令を申立て、対象となる投稿をしたアカウントの作成時のIPアドレスとアカウントにログインした際のIPアドレスの開示を求めます。

Instagramは、提供命令に基づいて、情報提供をしてくれますので、提供命令申立ても併せて行うのが良いと思います(開示命令のみと比較してどちらが早いかについては、比較したことがないため、判断がつきません。比較できた場合には、追記する予定です。)

Instagramは、電話番号を登録している利用者も多いため、開示命令のみで特定できるケースもあります。


※プロバイダ責任制限法の改正によって、侵害関連通信という概念が新たに制定されたことに伴い、開示の対象が変わりました。従来は、○月○日以降のログインIPとタイムスタンプの開示を受けることができましたが、投稿ごとに権利侵害の有無が判断され、侵害情報の送信と相当の関連性を有するもののみが開示されます。知財高判令和4年12月26日(事件番号:令和4年(ネ)第10084号・最高裁HP)では、相当の関連性に関し、「『相当の関連性』を有するか否かは、当該ログイン情報に係る送信と当該侵害情報に係る送信とが同一の発信者によるものである高度の蓋然性があることを前提として、開示請求を受けた特定電気通信役務提供者が保有する通信記録の保存状況を踏まえ、侵害情報に係る送信と保存されているログイン情報とが開示可能な範囲内で最も時間的に近接したものであるかなどといった諸事情を総合勘案して判断されるべき」として、「相当の関連性」については、総合考慮により判断するとしています。


Instagramを管理するMeta Platforms, Inc. (旧Facebook, Inc.)は、日本における代表者を登記し、代表者の住所が東京23区内となっていますので、東京地方裁判所が管轄となります。なお、日本におけるはビーコンサービス株式会社です。



大手プロバイダのログの保存期間は3ヶ月程度とされることが多く、発信者情報開示命令の制度により、手続きの迅速化が図られたとしても、時間との戦いであることに変わりはありません。Instagramから開示されたとしても、プロバイダにログが保存されていなければ、その後の手続に進んでいくことができません。したがって、対象となる投稿等を発見した場合、すぐに手続きの準備を進めるべきです。


提供命令については、要件を充足していれば、Instagram側の反論等を待たずに発令されます。


3 経由プロバイダに対する発信者情報開示命令・消去禁止命令申立て

Instagramは、提供命令に基づいて、情報提供をしてくれますので、提供された経由プロバイダの情報をもとに、経由プロバイダに対して、発信者情報開示命令・消去禁止命令の申立てを行います。

管轄は経由プロバイダの住所地となりますが、多くの場合、東京地方裁判所になります(大手プロバイダは東京に本社がある)。

消去禁止命令に関しては、東京地裁の運用では、提供命令とは異なり、インターネット接続事業者(アクセスプロバイダ)に発令前に照会を行っており、発信者情報の保有や任意の保存について確認しているとのことです。


経由プロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てを行った後、Instagramに対して、経由プロバイダへの開示命令の申立てを行ったことの通知をします。そうすると、Instagramから経由プロバイダに対して、Instagramが保有する発信者情報(ログイン時のIPアドレス・タイムスタンプ)が提供されます。


その後、裁判所から期日が指定され、Instagramに対する開示命令と経由プロバイダに対する開示命令を併合し、一体として審理され、裁判所が開示命令の発令の要件を充足するかを判断することになります。法制定時は上記のような運用を予定していたようですが、現在は、必ずしも併合して審理しないこともあるようで、裁判所は事案に応じて柔軟に対応しているようです。


経由プロバイダに対して、従来の発信者情報開示請求訴訟を行うことも可能ですが、その場合には、Instagramから保有する発信者情報の開示を先に受けておく必要がありますので(提供命令によって得られた情報では足りない)、Instagramへの提供命令の申立てはせず、開示命令の申立てのみを行うことになります。


4 手順のおさらい

①Instagramに対する発信者情報開示命令・提供命令申立て→

②裁判所からの進行の確認・補正等(裁判官・書記官から指示されます。)→

提供命令発令用の郵券や目録を提出します。口頭での告知でも足りるため、申立人側への送達は省略される場合もあります。

③提供命令の発令→

このタイミングでInstagramに書類(証拠等)を直送します。

④Instagramから経由プロバイダに関する情報の提供→

提供されるまでの時間に関しては、事案ごとだとは思いますが、提供命令に対する即時抗告の期間がありますので、期間経過後に問い合わせ等をしても良いかもしれません。

⑤経由プロバイダに対する発信者情報開示命令・消去禁止命令申立て→

Instagramからの経由プロバイダに関する情報の提供に基づき、明らかとなった経由プロバイダに申立てをします。裁判所から進行を確認されるかと思いますので、併せて経由プロバイダに書類を直送します。

⑥Instagramに対する経由プロバイダへの申立てを行ったことの通知→

⑦Instagramから経由プロバイダに対する情報の提供→

⑧Instagramに対する開示命令申立てと経由プロバイダに対する開示命令申立ての審理→

⑨発信者情報開示命令の発令という流れになります。


期日はTeamsにより出席することが可能ですので、一度も裁判所に出廷せずに発令を受けることも可能です。

Instagramでは、ログイン状態が継続するようになっており、投稿された日時からするとログの保存期間が経過していないと思われるケース(例えば、投稿から2ヶ月しか経過していない事例)でも、提供命令で情報提供されたログインIP・タイムスタンプの組み合わせでログの保存期間が経過してしまっていることがありますので、アカウント情報の開示のほうが重要になると考えます。


5 発信者に対する意見照会 

経由プロバイダは、Instagramから情報提供があった段階で、発信者(プロバイダの契約者)に対して意見照会書を送付し、発信者情報の開示に応じるか否かについて照会することになります。この段階で、発信者は自身の発信について開示請求がなされていることを認識することが多いです。


6 経由プロバイダから開示された発信者情報をもとに発信者の特定

開示命令手続での開示決定、または発信者からの開示についての同意により、経由プロバイダから発信者の情報が開示されれば、発信者の特定が完了することになります。


7 発信者に対して損害賠償請求

開示された情報をもとに、発信者に対して、損害賠償請求等を行っていくことになります。

開示されるのは、経由プロバイダの契約者の情報になりますので、必ずしも実際の発信者ではないという場合もあります。開示された契約者の情報が、法人であったり、ホテル、マンションなどの施設であったりするケースもあります。こういった場合には、実際の発信者を特定するまでにもうひと手間かける必要があったり、場合によっては実際の投稿者の特定を断念せざるを得ないような場合もあります。


損害賠償請求の方法は、任意の支払いを求める交渉と訴訟提起のいずれかによります。まずは任意の支払いを求め、拒否や無視をされたり、希望する金額に応じてくれない場合に訴訟を提起するという手順を踏むことが多いですが、最初から訴訟提起するという方法を選択しても問題ありません。


 

からんこえ法律事務所では、インターネット上の誹謗中傷などのトラブル(削除請求、発信者情報開示請求などの被害者側の対応や、請求者との交渉による示談交渉、請求者から訴えられた訴訟対応、発信者情報開示に係る意見照会書の回答書の作成業務など投稿者側のいずれにも対応しております。)に関する法律相談を取り扱っておりますので、お悩みのある方はお問い合わせ下さい。


オンライン相談にも対応しております(オンライン相談であれば、平日営業時間中に限り、初回30分は相談料無料)。宮城県外の方からのご相談にも対応しておりますので,お困りの方はお問い合わせ下さい。




 

【参考文献】

・プロバイダ責任制限法(第3版)(第一法規)(著者:総務省総合通信基盤局消費者行政第二課)

・プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン別冊「発信者情報開示命令事件」に関する対応手引き (著者:プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会)

・発信者情報開示命令事件に関する裁判手続の運用について(商事法務NBL1226号79頁)(著者:向井敬二他)



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